大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和34年(レ)188号 判決

控訴人(昭三四(レ)第一八九号事件控訴人・昭三四(レ)第一八八号事件被控訴人) 川崎一雄

被控訴人(昭三四(レ)第一八八号事件控訴人・昭三四(レ)第一八九号事件被控訴人) 吉本貞雄 外一名

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人吉本貞雄は控訴人に対し、別紙第一目録記載の建物につき神戸地方法務局尼崎支局昭和三二年一一月二七日受付第一九六四〇号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をなし、かつ右建物を明渡し昭和三二年一一月二七日以降右明渡済まで一ケ月金二八五円の割合による金員を支払え。

控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用中、第一、二審を通じて控訴人と被控訴人吉本貞雄の間に生じた分は被控訴人吉本貞雄の、控訴人と被控訴人西田寿枝との間に生じた分は控訴人の各負担とする。

事実

第一、申立

(一)  控訴人

昭和三四年(レ)第一八九号事件につき

「原判決を取消す。被控訴人西田寿枝は控訴人に対し、別紙第一目録記載の建物について神戸地方法務局尼崎支局昭和三二年一一月一日受付第一七九〇八号をもつてなした所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人吉本貞雄は控訴人に対し、右建物について神戸地方法務局尼崎支局昭和三二年一一月二七日受付第一九六四〇号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をなし、かつ右建物を明渡し昭和三二年一一月二七日より右明渡済まで一ケ月金二八五円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決ならびに建物明渡の部分につき仮執行の宣言を求め、

昭和三四年(レ)第一八八号事件につき、

控訴棄却の判決をそれぞれ求めた。

(二)  被控訴人ら

昭和三四年(レ)第一八九号事件につき、

控訴棄却の判決を、

昭和三四年(レ)第一八八号事件につき、

「原判決中被控訴人ら敗訴の部分を取消す。控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

第二、主張

(一)控訴人

(請求原因)

一、別紙第二目録記載の建物(以下第二建物と略称する)は、もと訴外廖添祿の所有であつたところ、同訴外人は昭和二六年頃右建物の従として別紙第一目録(A)記載の建物(以下(A)建物と略称する)を建築してこれを右第二建物に附合せしめた。

二、しかるところ被控訴人西田寿枝は、昭和二七年九月一八日右訴外人より第二建物及び(A)建物を代金八〇〇、〇〇〇円で買受け、第二建物についてその所有権移転登記を経由したが、その直後同被控訴人は第二建物及び(A)建物の従として別紙第一目録(B)記載の建物(以下(B)建物と略称する)を増築してこれを右建物に附合せしめた。

三、一方、控訴人は被控訴人西田寿枝に対し、右建物の買受資金として、昭和二七年九月一三日に金三五〇、〇〇〇円、同月一六日に金二〇〇、〇〇〇円、同月一七日に金五〇、〇〇〇円をそれぞれ利息は月二分、弁済方法は昭和二八年一月末日より完済まで元金三〇、〇〇〇円宛を毎月利息とともに控訴人方へ持参して支払うこととの約で貸付けたが、右買受資金の他にも昭和三一年一月から同年三月下旬までの間に数回に亘つて合計金四〇、〇〇〇円を利息、弁済期の定めなく貸付けた。

四、しかるに被控訴人西田寿枝は約旨に反して右貸金債務の支払を全くしなかつたので、昭和三一年四月六日控訴人と右被控訴人との間に、前記貸金債務の弁済に代えて同被控訴人所有の第二建物及びこれに附合せしめられて一体となつた(A)(B)各建物((A)(B)各建物を併せて以下本件建物と略称する)の所有権を控訴人に移転する旨の代物弁済契約が締結され、ここに控訴人は第二建物及び本件建物の所有権を取得して同日第二建物につき所有権取得登記を了するに至つた。

五、しかるところ被控訴人西田寿枝は、第二建物について建物の構造、坪数の変更の登記が未だなされていなかつたのに乗じ、第二建物に附合してその構成部分であるにすぎなくなつた本件建物につき、恰も第二建物とは別個独立の建物であり、かつ自らの所有であるかのごとく偽つて昭和三二年一一月一日同被控訴人名義でほしいままに前記保存登記をなしたうえ、同月二七日被控訴人吉本貞雄に対し同月二二日付の売買を原因として前記所有権移転登記をなし、かつ被控訴人吉本は同月二七日よりなんらの権原なく右本件建物を使用して現になおこれを占有している。

六、しかしながら、右の各登記はいずれも独立性を有しない建物の一部分についてなされた登記であつてこの点において無効であるばかりでなく、なんら実体上の権利関係に符合しないものであるから、被控訴人らに対して前記所有権に基いてその抹消登記手続を求めるとともに、被控訴人吉本に対して本件建物の明渡と不法占拠開始のときである昭和三二年一一月二七日以降明渡済まで賃料相当額月金二八五円の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及ぶものである。

(二)  被控訴人ら

(答弁及び抗弁)

一、第二建物がもと訴外廖添祿の所有であつたこと、同訴外人が昭和二六年頃(A)建物を建築したこと、第二建物について昭和二七年九月一八日被控訴人西田寿枝を取得者とする所有権移転登記、さらに昭和三一年四月六日控訴人を取得者とする所有権移転登記がそれぞれなされたこと、本件建物について控訴人主張のような所有権保存登記及び所有権移転登記がなされていることはいずれも認める。

しかしながら本件建物が第二建物の従としてこれに附合せしめられたものであるとの事実は争う。すなわち、本件建物はその建坪数の点においても第二建物の建坪八・四三坪に対し五・五九坪((A)建物)、一〇・一坪((B)建物)の広きに及ぶものであつてその間に主従の関係があるとは認め難いばかりでなく、その構造の点においても第二建物と境壁をもつて完全に遮断され、使用上も経済上も独立の建物と全く同一の効用を全うすることができるのであつて、第二建物と併合するのでなければ建物としての効力を生ずることができないとは到底認めることができないから、本件建物については民法第二〇八条の区分所有権が成立し、したがつてこれについてなされた保存登記等が建物の一部分についての登記として無効であるということはできない。

さらに、被控訴人西田寿枝の亡夫西田滝雄(昭和三一年三月二九日死亡)がその生前姉婿に当る控訴人から金銭を借用していたことはあるけれども、被控訴人西田寿枝自身が控訴人から金員を借受けたことは全くない。

また、昭和三一年四月初旬頃、右亡西田滝雄の債権者からの取立を免れるため訴外西田長太郎の勧告に従つて被控訴人西田寿枝所有の第二建物の登記簿上の所有名義を一時控訴人名義に変更することに同意し、その趣旨で前記のごとき所有権移転登記をしたことはあるけれども、控訴人主張のごとき代物弁済契約はその必要もいわれもないのでこれを締結したような事実は全く存しない。

二、かりにかような代物弁済契約締結の事実があつたとしても、

(イ)、右は前記亡西田滝雄の債権者からの取立てを免れるために被控訴人西田寿枝が控訴人と通謀してなした虚偽の意思表示によるものであるから無効である。

(ロ)、かりにこれが通謀虚偽表示でないとしても、右契約は控訴人及び前記西田長太郎が本件建物及び第二建物の乗取りを策しながら、真実その意思がないのに拘らず被控訴人西田寿枝に対し亡夫の債権者からの本件建物及び第二建物に対する強制執行を免れさせてやる旨申向けてその旨誤信させた結果締結されたものであつて詐欺に基くものというべきである。

そこで被控訴人西田は昭和三五年九月三〇日の当審第四回口頭弁論期日において控訴人に対してこれを取消す旨の意思表示をしたので、結局右契約は遡及的にその効力を失うに至つたものといわねばならない。

三、証拠

(一) 控訴人

甲第一ないし第七号証を提出し、原審証人山下幾平、同岸田ふさの、同西田長太郎の各証言、当審での控訴人本人尋問の結果ならびに原審での検証の結果を援用した。

(二) 被控訴人ら

原審証人宮崎喜与次、当審証人式村豊幸、原審及び当審証人西田長太郎の各証言、当審での控訴人、原審及び当審での被控訴人西田寿枝各本人尋問の結果をそれぞれ援用し、甲第一号証中官署作成部分の成立、被控訴人西田寿枝名下の印影が同被控訴人のものであること及び甲第二ないし第六号証の成立をそれぞれ認め、甲第一号証中被控訴人西田寿枝作成部分の成立を否認し、甲第七号証は知らないと述べた。

理由

一、第二建物がもと訴外廖添祿の所有であつたこと、同訴外人が昭和二六年頃(A)建物を建築したこと、第二建物について昭和二七年九月一八日被控訴人西田寿枝を取得者とする所有権移転登記、さらに昭和三一年四月六日控訴人を取得者とする所有権移転登記がそれぞれなされたこと、本件建物について控訴人主張のような所有権保存登記及び所有権移転登記がなされていることはいずれも当事者間に争いがない。

二、控訴人は、昭和三一年四月六日控訴人と被控訴人西田寿枝との間に、同被控訴人が控訴人に対して負担する金六四〇、〇〇〇円余の貸金債務の弁済に代えて右被控訴人所有の第二建物、(A)建物及び(B)建物の所有権を控訴人に移転する旨の代物弁済契約が締結されたと主張し、被控訴人らはこれを争うので先ずこの点について検討することとする。

被控訴人西田寿枝名下の印影が同被控訴人のものであることについて当事者間に争いがないので真正に成立したものと推認できる甲第一号証、当裁判所が真正に成立したと認める甲第七号証、原審証人岸田ふさの、原審及び当審証人西田長太郎の各証言、原審及び当番での被控訴人西田寿枝、当審での控訴人川崎一雄各本人尋問の結果(但し、右証人西田長太郎並びに控訴人及び被控訴人西田の各供述は、後記採用しない部分を除く)を総合すると、被控訴人西田寿枝の亡夫西田滝雄が、従前尼崎市守部において動力ミシン加工業を営んでいたところ、同市内の中心部で右営業を行いたいと思うようになつてこれに必要な家屋を物色中、昭和二七年 月頃訴外廖添祿所有の第二建物及び(A)建物を見付け同訴外人からこれを買受けることとなつたこと、しかしながら、右滝雄にはこれに必要な資金が不足していたため同人の兄である訴外西田長太郎ならびに姉婿である控訴人に右資金の借用方を依頼したところ、控訴人が訴外岸田ふさのから金一二六、〇〇〇円、訴外南モヨから二回に亘つて合計金三四〇、〇〇〇円をそれぞれ借受けたうえその頃これを滝雄に貸与したこと、かようにして滝雄は第二建物及び(A)建物を買受けてこれを所有することとなつたが、間もなく前記借受資金の一部をもつて(F)建物を増築したうえこれとともに右建物を妻である被控訴人西田寿枝に贈与して前記のとおり第二建物につき同被控訴人名義に中間省略の所有権移転登記を経由し、かつ自らは右(B)建物を作業場として前記営業を継続することとなつたこと、しかるところ滝雄の右営業は程なく不振となり昭和三一年三月二九日同人が死亡するに至つた頃にはその負債の額は略々金八〇〇、〇〇〇円に達していたこと、そこで、右負債のうち最も大口の債権者であつた控訴人からの依頼もあつたようなところから、同年四月初頃滝雄のひと七日の法要を営むため親族らが被控訴人西田寿枝方に参集した際、前記訴外西田長太郎から右被控訴人に対し、控訴人に対する右債務の履行を担保するため第二建物ならびに本件建物の所有権を控訴人に移転するとともに、控訴人において右建物をアパートに改造のうえこれを他に賃貸して利益を挙げその収益をもつて右債務の弁済に充当し、かつ被控訴人西田寿枝は無償で右アパートの二室を借受けて同アパートの管理の任にあるべき旨を勧告したところ、右被控訴人においてもこれを諒承し、かつ程なく長太郎より右話し合いの結果を聞き知つた控訴人もまた右の趣旨を諒解してここに右両名間に右各建物の所有権の譲渡に関する契約が成立し、かくして控訴人は第二建物及び本件建物の所有権を取得することとなつて、同年四月六日控訴人及び被控訴人相携えて神戸地方法務局尼崎支局に赴き、前記のとおり第二建物につき売買名義でその所有権移転登記手続を了するに至つたこと、しかるに右法務局よりの帰途控訴人が被控訴人寿枝に対し、右債務を完済できないときは右建物を明渡すべき旨を記載した書面の交付を要求したようなところから本件紛争を生ずるに至つたことをそれぞれ認めることができ、原審及び当審証人西田長太郎の証言、原審及び当審での被控訴人西田寿枝、当審での控訴人各本人尋問の結果中右認定に副わない部分はいずれも採用し難く、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

三、なお、被控訴人らは、右契約は執行免脱のために通謀してなした虚偽の意思表示によつてなされたものと主張し、さらにかりにしからずとするも控訴人及び訴外西田長太郎の詐欺によるものと主張しているけれども、いずれもこれを認めるに足りる証拠はなく、原審及び当審で被控訴人西田寿枝本人尋問の結果中右主張に副う部分はにわかに信用できないので、右の主張は採用の限りではない。

四、しかして控訴人は、本件建物は第二建物の従としてこれに附合せしめられたものであつて独立の建物ではないのに拘らず、恰も独立の建物であるかのごとく本件建物について被控訴人西田寿枝名義の所有権保存登記及び被控訴人吉本貞雄名義の所有権移転登記がなされているところ、右は建物の一部についてなされた登記であつてその点において無効のものというべきである旨主張し、被控訴人らは本件建物はそれ自体独立性を有する建物であつてこれについては区分所有権が成立していると争うので次にこの点について判断する。

本件建物が独立の建物であるとしてこれについて控訴人主張のような登記がなされていることは前記のとおり当事者間に争いのないところ、第二建物の増設建物である本件建物について民法第二〇八条所定の区分所有権が成立しているかどうかは、本件建物が独立の建物と同一の経済上の効力を全うすることができ、第二建物と併合しなくとも建物としての効力を生ずることができるかどうかによつて判断すべきものと解するのを相当とするところ(最高裁判所昭和三三年(オ)第三五二号同三五年一〇月四日第三小法廷判決参照)、原審での検証の結果によると、本件建物及び第二建物は木造瓦葺平家建一棟三戸建のうちの相隣接する二戸であるけれども、右両建物は互に壁及びベニヤ板をもつて遮断され、屋内での両建物間の交通は全く不能であること、本件建物のうち(B)建物は第二建物及び(A)建物の東側に直接に隣接して建築された板造トタン葺工場風の作業場(約一一坪)であつてその棟木は右建物に接続し、かつ第二建物とは壁をもつて遮断されるとともに(A)建物とは約半間幅の開き戸によつて連絡され両建物間の往復は自由であること、(A)建物が間取り六畳及び四畳半の二部屋から成る畳敷きの建物であり、(B)建物がその内部に便所とベニヤ板囲いをした炊事場とを設置した建物であつて、右両建物への出入口としては(A)建物の南西隅に格子戸及び(B)建物の南側に開き戸が各一個所ずつ存在することをそれぞれ認めることができるのであつて、右の認定事実を総合すると、本件建物、すなわち(A)建物と(B)建物とは両者相合して独立の建物と同一の経済上の効力を全うすることができ、第二建物と併合することなくして建物としての効力を生ずることができるものと認めるのが相当といわざるを得ない。すると、本件建物については民法第二〇八条所定の区分所有権が成立し得るものといわねばならない。

しかしながら、当審での被控訴人西田寿枝本人尋問及び右検証の各結果ならびに前記争いのない事実と認定事実によると、本件建物のうち(A)建物は昭和二六年頃当時第二建物の所有者であつた訴外廖添祿がこれに接続して増築のうえその構成部分としたものであり、かつ現にベニヤ板をもつて遮断されている部分には当時なんらの境壁も存せず第二建物と(A)建物との間の往来は自由であつたこと、(B)建物が第二建物及び(A)建物に接続して増築されたのはかような状況のもとにおいてであつたこと、しかして被控訴人西田寿枝が昭和三二年一一月一日偶々本件建物についてなんらの登記もなされていなかつたのに乗じてこれに所有権保存の登記をしたうえこれを他に売却した当時、さらには被控訴人吉本貞雄がこれを買受けて同月二七日前記所有権移転登記を了した当時においてもなお右のごとき状態であつたものと認められるとともに、その後に至つて前記認定のようにベニヤ板の境壁が設置されたため第二建物と本件建物とが互に遮断されるに至つたものと推認することができるのである。しからば、被控訴人のなした右所有権保存登記は少くともその当時においては建物の構成部分たる一部についてなされた無効の登記というべく、また被控訴人吉本貞雄のなした右買受行為もまた一戸の建物の一部についてなされた売買行為として無効のものと認めるのが相当といわざるを得ない。もつとも右保存登記については、前記のとおり本件建物がその後経済上独立の建物と同一の効力を全うすることを得るに至つて区分所有権が成立するとともに、結局現在の不動産の状況と権利関係とに符合するものとし有効な登記となるに至つたと解することができるけれども、被控訴人吉本貞雄のなした右所有権移転登記は実体上の権利関係に符合しない無効の登記であつて、この無効は本件建物についてその後区分所有権が成立するに至つたことによつて治癒されるものではないといわねばならない。けだし、右区分所有権の成立によつて、建物の一部についての売買として無効であつた前記買受行為が遡つて有効となるものではないからである。

五、以上のとおりであるから、被控訴人吉本貞雄が本件建物の所有者たる控訴人に対し、前記所有権移転登記の抹消登記手続をなすべき義務を負担していることは明らかであるけれども、右所有権保存登記が前記のとおり現在においては有効なものと認められる以上、被控訴人西田寿枝としては控訴人に対し右登記の抹消登記手続をなすべき義務を負担するものではないといわねばならない。なぜなら被控訴人西田寿枝としては、控訴人との間の前記契約に基き、当時未登記建物であつた本件建物について右契約を原因とする所有権移転登記手続をなす前提としてむしろその所有権保存登記をなすべき義務すら現に負担しているものであるからである。したがつて、控訴人が被控訴人西田寿枝に対して、右契約を原因とする所有権移転登記手続を請求するにおいては格別、本訴におけるがごとくすでになされた右保存登記の抹消登記手続を求めるにおいてはかような請求は理由がないというべきである。

六、しかして被控訴人吉本貞雄が昭和三二年一一月二七日より本件建物を使用して現になおこれを占有していること、本件建物の賃料額が月金二八五円であることはいずれも右被控訴人において明らかに争わないところであるから、同被控訴人としては控訴人に対し、右建物の明渡をなすとともにその占有開始の時である昭和三二年一一月二七日以降右明渡済まで右賃料額相当の損害金の支払をなすべき義務があるといわねばならない。

七、しからば、控訴人の本件請求中被控訴人吉本貞雄に対する請求は全部これを認容すべく、被控訴人西田寿枝に対する請求は失当として棄却すべきであるから、これと異る見解に出た原判決はこれを変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九六条を適用し、仮執行の宣言については相当でないからこれを付さないこととして主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫 清水嘉明 藤原弘道)

第一目録

尼崎市難波本町六丁目三五九番の一地上

家屋番号同所二〇番の三

(A) 木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 五坪五合九勺

(B) 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建作業場

建坪 一〇坪一合

第二目録

尼崎市難波本町六丁目三五九番地上

一、木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 八坪四合三勺

一、木造瓦葺平家建便所 一棟

建坪 五合八勺

一、木造瓦葺平家建浴室 一棟

建坪 一坪七合七勺

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例